きょうはあんじの2回目の月命日です。ここまで、あっという間の2か月間でした。
初めて迎えた10月の月命日は、方々への返礼やら忌明けの支度やらに追われてただただ慌ただしかったような気がします。
あの日とは打って変わって、きょうは、あんじと過ごしてきた冬の風景をしみじみと思い起こす一日になりました。
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ところで、とてもよい天気に恵まれた昨日、母は庭の植物の手入れに励みまして。
あんじが小学6年生のときに訪問授業で植えたイチゴの苗は、この4年ですっかり株を増やし、初夏にはこんなにも実がっ
まあ残念ながらあんじはフルーツ全般、一切口にしないのですが。それにしても、小さな鉢から始まった苗が、よくもこんなにすくすく立派に育ったものです。
あんじのイチゴではありますが、当の本人は土仕事など一切しません。授業で仕方なくやる以外は。
「手が汚れちゃう~」から嫌なんだそうな。そして水もやらなければ生育過程を観察することもありません。
すなわち一生懸命ここまで育てたのは、そう、母なのです。ちなみに今回は新しい土に苗を植え替え、5株に整理しました。
それでも表向きはあんじのイチゴとすべく、プレートは挿しておいてやります。小6のあんじが揺れる字で「あんじ」と記したものです。
今後も母が水をやり、肥料を与え、立派なイチゴを育てて参りましょう。
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先にも記しました通り、あんじは一切フルーツを食べないのですが、みかんの皮をむくのは大好きでして。
「あんちゃんみかんむくっ!」の一声で唐突に始まる、かの有名な杉山家の冬の風物詩、わんこみかんはご存知でしょうか。
みかんが家から無くなるまで、もしくはあんじが皮むき作業に飽きるまで延々みかんを食べ続けさせられる、わんこそばならぬわんこみかんです。
あんじが小さな手で一生懸命にむいたみかんは、親指が刺さり陥没した穴より果汁があふれだしているのが常でございます。
そのなんとジューシーなこと。それはそれは手やテーブルはおろか、なんなら袖、果てはおズボンまでみかん汁パラダイスと化すのでございます。
部屋中が柑橘フレーバーに包まれる、それが杉山家の冬の風景です。ところがもう、あのにぎやかで甘酸っぱく慌ただしい冬がやってくることは、もうありません。
それでもみかんの季節はやってきます。先月に早くもみかんをいただいたので、ひとつ、あんじの祭壇にお供えしました。
もしかしたらそのうち親指の穴が開いていたりしないかな?果汁があふれちゃってたりしないかな?
などと幻想を抱き、そわそわとその時を待ちわび供えておくことおよそ1か月。もちろん、そんな現象が起きるはずもありません。
とうとう供え続けたみかんを下げ、ほんのりしぼんだ皮を、しょんぼりしながらむきました。
ため息をつきながら裸のみかんをぼんやり眺めていると、「食べていい?」と末っ子がパクリ。
「あんちゃん、むいてくれなかったね。あんちゃん、もうみかんむいてくれないんだね。」
そんなことを末っ子が口にするもんだから、母の顔からはみかん8個分の汁があふれ出ました。
そうだね。もうむいてくれないんだね。あんじの親指が刺さった汁でビチャビチャのみかん、もう食べられないんだね。
「あんちゃんみかんむくっ」と、家族があんじにみかんを奪われることはもうありません。
「はい、たべなっ」と延々裸のみかんをわたされることも、もうないのです。
みかんひとつむき終えるまで、およそ4分。ようやく口にするみかんは汁がしたたり生温かい仕上がりです。
ひとくち食べるや否や、「おいしい?もひとつむく?」と首をかしげて笑顔で聞いてくるあんじ。
返事を待たず、すでに次のみかんを汁だくにしているのもこれまた常です。
あのー、みかん汁まみれのあなたの手やテーブルをせっせと掃除するのは母なのですが。
あなたがみかんをむけばむくほどほとばしる汁気に気をとられてもはや味などわからないのですが。
あの手間と時間を費やすやりとりのすべて。どれだけ愛しくて仕方なかったことか。
きれいにむかれた裸のみかんはどこか他人行儀で、わが家の風景に馴染みません。
昨年まで当たり前だったやりとりが再現されることは二度とないのだと、いやが上にも実感させられます。
本当に、あんじはもういないのですね。
あんじとの日常を思い起こしては笑い、共に笑う姿がない現実に引き戻されては打ちひしがれる。
2回目の月命日は、そんな一日に終始しました。
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つまりは、フルーツを食さないあんじに唯一ゆかりのあるフルーツといったら、イチゴではなくみかんなのだという話なのです。
ゆえに、みかんの苗を買いましてね、あんじの祭壇そばの出窓の外で育て始めました。
すでに青い実がなっておりますので
この子たちが黄色く熟したら、またあんじにお供えするとしましょう。
ひょっとしたらいつの間にか親指の穴、開いてたりするかな…?なんて淡い期待を持ちながら。